
PRODUCTION NOTE
- 4月5日(火)
- 主人公・渡真二郎(水谷豊)が、完治(六平直政)の運転する真っ赤なマスタングで「THE TOPS」へと向かう、カッコいいシーンでクランクイン。酔っぱらった渡は目を閉じて、春風にあたっている。「渡の顔のヨリを撮っていたBカメの(木村)明代ちゃんが、撮影監督の会田(正裕)さんに『渡って、目を開けたまま眠る設定なんですか?』と確認したんだって。僕は意識してなかったんだけど、どうやら薄目を開けて、完治の芝居を追いかけてたみたい。俳優の時も、ちゃんと監督をやってたんだなって(笑)」(水谷豊監督)。
- 4月6日(水)
- 「THE TOPS」の舞台となる、東京キネマ倶楽部初日。渡が、若手ダンサーたちにショウビジネス界の残酷さを徹底的に突きつける、オーディションの撮影が行われた。「芝居のプロではないダンサーにとって、オーディションから順撮りで始めることはとてもいい。ただ初日と言えども、この映画の世界観を決めるシーンだから手を抜くわけにはいかない。僕にとっては、この日が初日の感覚でした」(監督)。厳しい表情をした渡の登場で、50人のダンサーがひしめくオーディション会場に重圧感が広がる。ステッキが折れるほど激しい渡の要求にもがくも、脱落者が続出。撮影に立ち合うHIDEBOHやダンサーたちに、実際のオーディションの様子を確認しながら、リアルな描写を重ねていく。「短いシーンの中で、ダンサーたちがどんどん脱落していく様子を、ステップ、足元、手のカットで積み重ねて、時間を刻んでいかなきゃいけないねって。前日に監督と具体的なカット割の打ち合わせをしたら、どうしても140カット必要だった。この撮影を乗り切れたことは、スタッフにとっても大きかったです」(会田)。
- 4月10日(日)
- 芝浦にある日本電気計器検定所で、稽古場のシーン。部屋の三面に窓があり、自然光を活かした撮影が可能な空間に大きな鏡を据えて、趣のあるレッスン場に仕立てた。MAKOTO(清水夏生)のライバルとして、JUN(西川大貴)がレッスンに初参加するシーンでは、渡が「タップで自己紹介してくれればいい」と声をかけて、緊張するJUNを輪の中へ導いていく。渡の「全員だ!」という声で、ダンサー全員の力強いステップの音が、豪雨のように響きわたった(しかし、彼らの顔は笑っていた!)。「タップの音は打楽器専用のマイクで録音しています。全員が好きなように踊っている、バラバラな自由さ。このシーンが前半のピークだと思いました」(録音/舛森)。テストなし、長回しのぶっつけ本番で、撮影は一発OK。ダンサーたちのエネルギーが轟き合う、迫力の画を撮り終えた会田撮影監督が「魂を感じた!」と監督に駆け寄った。
- 4月20日(水)
- 板橋区高島平にある病院で、入院した毛利(岸部一徳)を、渡が見舞うシーン。「ロケハンに行って、毛利と同じ病室の患者さんが亡くなるアイデアを思いつきました。治る病気ばかりじゃない、人が亡くなる病院の日常を見せたかった。毛利と渡のシーンでは、多くは語らずとも、昔から続く二人の関係性を表現できたら、と思っていました」(監督)。前日に撮影した渡の部屋での、毛利と渡のやりとりを「絶妙のかけ合い」と絶賛した舛森は「監督はよく『全部聞こえなくていいよ』っておっしゃるんですが、ガラス越しのやりとりの中『タップを踊る時だけ、なぜか渡の声が聞こえるようにしたい』と。監督の演出ってすごいなと思いました」。ラスト・ショウに再起を賭ける男たちの、成熟した友情が静かに描き出された。

- 4月21日(木)
- 東京キネマ倶楽部で、ラスト・ショウを鑑賞する客席側の撮影。キャスト30名、エキストラ140名が集合した1階から3階までを、縦横無尽に移動しながら70カットを撮っていく。拍手や歓声のタイミングやボリュームも、監督の頭の中に全てのプランがあるので演出に迷いはない。
ダンサーが観客にダンスの一部を披露する際には「エキストラの方々にも、ショウを体感してもらいたい」という思いを込めた監督の前口上が、客席を盛り上げた。息子(役のダンサー)の晴れ舞台を見守っていた前田美波里も「本心から母親の気持ちになれた」と感動しきり。『感動のダンス』のパフォーマンスには、監督の目に涙が光る一幕も。「長時間撮影につき合ってくださる人たちに、感謝の気持ちを込めて踊りました」と語ったダンサーたちは「今日のダンスを超えるものを、映画ではお見せできるように頑張ります!」とラスト・ショウに向けて、さらに気持ちを引き締めた。
朝7時半からスタートした撮影は、予定時刻を越えて、深夜まで続く長丁場に。しかしセッティング待ちの時間も、次のシーンを軽妙に説明する監督のエンターテイナーぶりに魅了されたのか、観客席の人たちの表情は生き生きとしていた。客席側の撮影が終わると、監督自らエレベーター前に立ち、エキストラの一人ひとりと握手を交わして見送った。残すは渡のショットだ。「病院のシーンなんて、主演なのに背中越しでいいって。俳優としてではなく、監督の佇まいなんだよね。そんな中、PA席からダンサーたちを見守る渡が、本作最高のカットかなって(笑)。渡の表情に、ダンサーたちと同等の達成感を感じました。監督も、芝居じゃなかったって言ってましたね。渡の思いと監督の気持ちが重なったんじゃないかな」(会田)。翌1時をまわって、長い一日が終わった。
- 4月26(火)〜28日(木)
- 東映東京撮影所で3日間にわたり、本作のハイライトとなるラスト・ショウの撮影。前日にスタッフ、キャスト全員でリハーサルを行い、カット割などの最終確認をして、翌日の本番に備えた。タイトなスケジュールだが、鍛え上げたダンサーたちのダンスを一目見ようと、普段なら次の準備に追われて撮影現場にいないスタッフの姿も。「ダンサーの一人が本番で振りを間違えて謝った時、監督がすかさずマイクを取って『ほかの人の方が間違っているように見えましたよ』って。素敵な人だなあって思いました」(装飾/山岸正一)。すでにクランクアップした北乃きいも応援に駆けつけ、スクラム感を高めた。
そして最終日の『感動のダンス』。「妥協すると悔いが残りますから、やり直したい時は遠慮なく言ってください」と言い続けていた監督が、長時間踊りっぱなしで疲労のピークに達したダンサーに「最後に一曲通して、踊って欲しい」とリクエスト。ある種のトランス状態に陥って、感情が昂り、涙をこぼす彼らに、監督はなお「泣きたくなるけど、ここは我慢して。観客に涙を見せてはいけない。素晴らしいパフォーマンスを見せることだけが大事。それが僕の考えるエンターテインメントです。これほど哀しい笑顔はない、というくらいの笑顔を見せて」と英断を下した。ひたむきに撮影を終えて、解き放たれた5人の表情は美しかった。
- 4月30日(土)
- タップシューズを作る、靴職人の仕事ぶりを撮って、クランクアップ。六平直政やHIDEBOH率いるダンサーズも集結。岸部一徳は「全く新しい映画監督が生まれた」と、熱い言葉を盟友に贈った。「もう少し長く撮影したいと思ったのは、何十年ぶりの感覚でした。サンキュー!」という監督の笑顔に、毛利のあるセリフを思い浮かべたスタッフ・キャストは少なくないのではないだろうか。それぞれの限界の先に見た新しい世界は、25日間の撮影が終わった後も、決して消えることはない。
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