INTRODUCTION
ショウビジネスの光と影、成功と挫折、
華やかなスポットライトと受け継がれる魂。
水谷豊が40年思い続けた夢が、ひとつの映画となった。
ハートウォーミングなキャラクターで見る者の心に光を射したかと思えば、屈折した青春像やアウトサイダーな人物を体現して影を残す。人間の陰と陽を巧みに表現する、希代のアクター・水谷豊。そんな水谷が、映画監督に挑戦するというニュースは、昨春、日本中に驚きをもって迎えられた。
本作の最初の構想が生まれたのは、水谷が20代の頃。その後、ブロードウェイで見たショウにショックを受け、言葉や文化の壁を超えて、足音で奏でる極上のエンターテインメント=タップダンスをモチーフにした、若きダンサーたちの青春ストーリーに思いを馳せた。それから40年の時間を重ねる中、実人生を舞台に、身をもって感じ考えたエンターテインメントに対する深い想いをこめて、本当に作りたいものと向き合う決意をした。
初監督作となる本作では、主演も兼ねて、作品を牽引する。水谷が演じるのは、栄光も挫折も嘗めつくしたカリスマ舞台人・渡真二郎。トップダンサーを夢見る現代の若者たちを、時にシビアなレッスンで鍛え、時には慈しみ見守りながら、極みへと引き上げていく。男の色気を纏った、ハードボイルドな主人公だ。
水谷監督のもとには、映画の枠組みを超えた、豪華なキャスト・スタッフが集結した。渡の盟友・毛利喜一郎を演じるのは、水谷が出演したTVドラマの金字塔『傷だらけの天使』から縁のある名優・岸部一徳。毛利がオーナーを務める老舗の劇場「THE TOPS」を献身的に支えてきた女性・松原貞代を、ミュージカル女優のパイオニア的存在である前田美波里が演じるほか、北乃きい、六平直政など、TV、映画、舞台と、日本のエンターテインメント界を縦横無尽に活躍する、唯一無二の個性と実力を兼ね備えた俳優陣が顔を揃えた。
渡に導かれ、ラスト・ショウを目指して奮闘する5人の若きダンサーには、本物のダンサーたちをキャスティング。4ヵ月間にもおよぶ大規模なオーディションで、500人を超える応募者の中から勝ち抜いた彼らだが、芝居経験はゼロに等しい状態だった。そんな彼らが、劇中のストーリーさながらに、素晴らしい役者へと成長する。若者たちが自らの限界を超えていくドラマティックな軌跡を、リスペクトして撮るのは、撮影監督・会田正裕。練達のキャメラマンの強烈な眼差しが、映画ならではの世界観を創り出していく。
フィクションを超えてしまうライヴのエッセンスは、この映画のハイライトとなる「ラスト・ショウ」にも反映されている。24分にもおよぶ圧巻のショウでは、水谷の豊かな才能が見事に花開く。壮大な音楽を手掛けたのは、水谷の歌手活動もサポートしてきた佐藤準。春夏秋冬をテーマに構成された圧倒的な楽曲で、ダンサーたちのパッションを解き放つ。タップダンスの監修振付には、ダンサーの心の音色に耳を傾けるフレッシュな表現方法で、タップの可能性を広げる日本を代表するダンサーのHIDEBOH。さらにスーパーバイザーとして“日本タップダンスの祖”と呼ばれた、故・中川三郎の愛娘にして後継者・中川裕季子が参加。このほか長年、水谷と共に国民的ドラマを手掛けてきた最強スタッフが、水谷監督の自由で大胆な作品世界をしっかりと支えている。
本作は、2016年4月から5月に掛けて撮影。約8ヵ月間に及ぶ緻密な編集と、音楽とタップ音にこだわったダビング作業を経て、完成を迎えた。
ラスト・ショウが始まる直前、渡は盟友・毛利にこう語る。
「夢を見るのはこれからだ」。
「ドキュメント」と「ショウ」と「映画」を感動でつないだ、まだ誰も見たことのない「世界」へ、今、観客を誘う。
WHAT IS TAP ?
【タップダンスとは】1700年代中盤にアメリカ南部の黒人奴隷により生まれたとされるダンスの一種。つま先とかかとにタップチップという金具を取り付けた特殊なシューズを履き、足を踏んだ際に出る音と共に踊る。動きだけでなく楽器のような側面も持ち、幅広く自由な表現を可能にする。現在ではショウとしてのビジュアル的要素の強いブロードウェイスタイルと、黒人ストリートダンスを発祥とするNYスタイルのリズムタップという大きく二つの流れがあり、様々な文化と融合している。
日本では1931年、新橋に日本で最初のタップダンス教室が開設。1933年に中川三郎がブロードウェイで「雨に唄えば」のドナルド・オコーナーらと共演するなど大成功を果たし、タップダンスの知名度を大きく上げた。2003年、北野武監督映画『座頭市』で、本作でもタップダンス監修振付を務めているHIDEBOHによるタップシーンが描かれたことで、その人気に火が付き、自由な表現に一躍注目が集まっている。
























