TESTIMONY
「ドキュメンタリー」なのか「ショウ」なのか。“映画”制作現場のスタッフに聞いた。
- 撮影監督/会田正裕の証言
- 監督の言葉と台本の文字から、具体的な映像のイメージを作り上げていくのが、撮影監督の仕事。そういう意味では、監督の表現力が素晴らしかったので、最後のステージも含めて、やるべきことも多かったけど、大きな充実感がありました。今回は直感的に、現場で起きている現象を見守るような、優しい目線にしたくて、ゆったりしたフレームに。シネスコにしたのは、圧巻のステージをあたかも舞台のように見せたかったから。ショウが始まる前のロビーのシーンは、普通なら点描で描くところを、一気に見せたいという監督の思いを、スタッフ、キャスト全員で実現させよう、と。カメラがスイングするような、長回しのワクワクカメラワークになりました(笑)。
- 監督補/杉山泰一の証言
- 監督もフィルムで育った世代なんだと実感しました。自分が撮りたいビジョンをはっきり持っているので、スタッフへの指示に迷いがない。無駄なカットは撮らないし、カット割も全部頭に入っているから、台本を開くことがないし、そもそも現場に持ってきてなかったかも(笑)。カット割の説明が、途中から演出になっていく、流暢な監督の話を交通整理するのが、僕の一番の仕事でしたが、勉強になることが多かったです。5人のダンサーが映画の現場に慣れる意味もあり、最初の撮影にオーディションのシーンをぶつけました。しんどいシーンでしたが、ドラマと撮影が一体化して盛り上がれたことで、全員が最後のパフォーマンスに向かっていけたと思います。
- 脚本/両沢和幸の証言
- 大きな枠組みは、既に監督の中でできあがっていました。散らばったエピソードをまとめるのが僕の仕事でしたが、若い頃にはJUNの役をやるつもりだった監督が、ダンサーという立場を降りてもなお、このテーマを取り上げたい理由を見出す必要がありました。原案に加えた大きな変更点は、毛利の死です。世代交代がひとつのテーマだと考えて、新人脚本家のつもりで挑みました。監督と打ち合わせを重ねる中、通ってきた映画や好きな映画、映画的境遇に共通項を感じられたのも嬉しかった。現場での監督の佇まいには、助監督時代に仰ぎ見ていたベテラン監督たちの姿を思い出しました(笑)。
- 音楽/佐藤 準の証言
- ワルツをタップとどう合わせるのだろう?と思いながら作った『Autumn Waltz』は、完成作を観て、なるほどなあと。移ろいゆく秋に対する“もののあはれ”を感じました。『Romantic Winter』の、白で表現された世界も好きですね。季節の変化を色で捉える、監督の感覚が反映されていて。MAKOTOが華を抱き寄せるシーンのBGMは「ビートルズっぽい音楽が欲しい」という監督の思いつきから。曲が入るタイミングも、面白かったですね。渡の部屋で流れる曲は「暗さだけじゃない。渡の抱えているつらさを、前面には出したくない」という監督の意向がありました。
- 録音/舛森 強の証言
- 最初に監督から「生活環境音で映画を組み立てたい」と言われました。映画の方向性を探る中で、ショウができあがるまでのドキュメンタリーが、ひとつのテーマだと摑んでからは、台本をもとに、登場人物たちの履歴書を作り始めました。どういう場所に生まれ、育って、という、それぞれの生活環境を形作ることで、一人ひとりの音をあてはめていく。そうやって全部の音が途切れず、きれいにつながっていく中、唯一、渡の人生を象徴する、杖と足の音を消したところがあります。そこだけは観客目線ではなく、渡の心情で見せたかったんです。
- 照明/松村泰裕の証言
- いかに暗部を作るか? がテーマでした。撮影監督の会田さんと意識していたのは、洋画風のライティング。光を上からではなく、横から当てることで、一方を明るく、他方を徹底的に暗くして、メリハリをつけました。渡の部屋のシーンでは、彼の過去を反映した硬い光の中にも、方向性を加えています。渡の暗さとは対照的に、稽古場をはじめ若手ダンサーのシーンでは、割れた鏡を使うなど、画の中にキラリと光るものを取り入れました。
- 美術/近藤成之の証言
- 台本から、ショウビジネス界を舞台に、本物のタップダンスで人々を感動に引っ張っていく、現実と空想の世界をイメージしました。ロケハン時に監督が、その場所で撮るシーンの出演者全員分の芝居を見せてくれることで、美術のフレームが読めてきました。「THE TOPS」の撮影が行われた東京キネマ倶楽部は、既に完成された空間。モダンな壁面、天井、柱を活かしつつ、事務所から舞台を見下ろせる空間を、吹き抜けの三階に作りました。
- 衣裳/渡部祥子の証言
- 監督に言われたのは、衣裳でキャラクターを少し底上げすること。例えば真面目なMAKOTOの練習着には「enough」を逆にしたTシャツを。引っ込み思案のJUNは、寝間着以外全部襟つきに。役のイメージを膨らませるために、各々の設定を自分の中で考えました。ショウの衣裳は、実際にダンスリハを見て、変更したものも多かったです。MIKAも『サクラ』では足を隠して、メリハリを出しました。
- ヘアメイク/山北真佐美の証言
- 渡の人物像について、監督の「白髪にしよう」という提案から、眉や髭も綺麗に整えず、彼の来し方の印影を表現しています。各キャラク ターについても、気張らない「普段」の彼らと、ダンスシーンに見られる「ショウ」の中に生きる彼らとの対比を意識して提案。特にダンスシーンでは映像で輝くよう、構成や衣装とのマッチングも考慮し、全体の世界観を創りました。
- 編集/只野信也の証言
- 編集者にとって一番大事なのは、作品のリズムを作っていくこと。東京タワーの見せ方には悩みましたね。シーンの持つ力を(編集で)もう少し引き出したい思いもあり、渡が模型を壊すシーンでは、ステッキを振り下ろす時にバウンドの間を作らないことで、怒り、悔しさ、そして情けなさ……彼の心情を表現しました。深夜の事務所での萌と渡のシーンでは、萌のセリフを削り、最後にしばらく画を残すことで、彼女の悲しみを際立たせました。
- コスチューム
(水谷豊・岸部一徳・六平直政担当)の証言
- 台本を読み込んで、冒頭の最高に落ちぶれたシーンを、渡の衣裳の肝と捉えました。錆びれた役どころでも、ただ汚すのではなく、スターの雰囲気を残したカッコいいイメージを監督に提案して。若いダンサーを演出する中、徐々にラフなTシャツや明るめの色のシャツを着せていくことで、渡の内面の変化を表現しています。天才タップダンサーとしての栄光を、完全に取り戻したラスト・ショウでの、タイトなタキシードに結びつく計算です。
- プロデューサー/遠藤英明の証言
- 最初に本作の構想を聞いたのは2015年3月。“日本人の琴線に触れる人間ドラマになる”と直感しました。企画開発として、まずは水谷さんが40年間温め続けていた構想を80枚を超える手書きのメモにして頂き、約半年かけて本作品の原型となるプロットを練り上げました。このプロットと監督メモをもとに脚本家の両沢さんに約2ヶ月をかけて初稿を書き上げて頂きました。キャスティングに関しても手探りの状態からのスタートで、役者にタップを踊ってもらうか、ダンサーに演技をしてもらうかでとても悩みました。最終的には監督が“ダンサーに演技をさせる”との決断をして、その後のオーディションにより素晴らしいダンサーたちと出会うことが出来ました。
監督の人選に関しては、企画開発の初期から“この作品を具現化できるのはご本人しかいない”との確信がありましたので、マネージャーを通じて水谷さんにオファーをさせて頂きました。ただ、いまだにご本人からはお返事を頂いていません(笑)。